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Konstanz als Heimatstadt

笠谷和比古・主君「押込」の構造

主君「押込」の構造―近世大名と家臣団 (講談社学術文庫)

主君「押込」の構造―近世大名と家臣団 (講談社学術文庫)

近世法制史の名著が講談社学術文庫になり,あわせて改訂されています。


江戸時代の大名家は,それまでの中世とは異なり,君主の権力が強いものであったというのが一般的な理解でした。それに対して本書は,大名家のお家騒動や君主の乱行があった際に家臣団らが君主を表舞台から追放する「押込」とよばれる方法に焦点を当て,近世の大名統治の構造の特色を明らかにしています。本書のことは学部時代の日本法制史で聞いていたのですが,読む機会を得ることなく過ぎてしまっていました。今回文庫化されて改訂がなされたのをきっかけに,読んでみることにしました。
本書は4章構成で,前半の第1・2章が具体的な事例,後半の第3・4章が理論的な内容になっています。前半部分ではまず,蜂須賀家の抗争が詳細に紹介され,次に第2章ではさまざまな大名家における君臣間の抗争とその要因が分析されます。これを読むと,江戸時代における君主の専制化は困難で,その失敗の過程において主君押込が出てくることがよく分かります。これに対して後半部分では,主君押込の構造分析と,江戸時代における国制のあり方が検討されます。主君を押し込めうるのは家臣団の自律的な力であり,そこには当主そのものに対する忠義ではなく「御家」に対する忠義が重要になってくるという構造転換があることが指摘されます(本書・190頁)。
もともと研究書であるため註も細かく,また原史料もたくさん引用されていますが,法制史についてあまり前提知識がなくても読めるようになっています。江戸時代に関する歴史物としても楽しめると思います。