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竹中平蔵・構造改革の真実

構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌

構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌

小泉政権の内部からみた構造改革の経緯が生々しく伝わります。


5年半にわたった小泉内閣で常に要職閣僚ポストを担当していた竹中平蔵氏がその日誌をもとにして書いた話題作です。2001年といえばまだ最近のような感覚でしたが,実際に読んでみると,ずいぶんと時が経っていることに気づかされます。とはいえ,もうすこし客観的な評価をするにはさらに時間が経過することが必要でしょう。後世の歴史家がこの時代を分析する場合に,本書はその貴重な資料として引用されることになると思われます。
本書の特色は2つにまとめられます。1つは,政権の中枢にいた著者ならではの政策決定の経緯の記録です。著者が特に強調するのはマスコミとの関係です。郵政民営化解散までの防戦態勢の中で身につけたノウハウを総選挙で逆手に取った様子がよくわかります。経済財政諮問会議の「骨太の方針」が今日のような形になった経緯などは詳しくは初めて本書で知りました。
もう1つは(こちらの方がより興味深い要素ですが),学者としての著者がみた政策決定過程の分析です。金融担当大臣としての不良債権処理に取り組んだ教訓として著者は,

  • 政策の細部を官僚任せにせずしっかりと制度設計しなければ成果はあげられない(戦略は細部に宿る)
  • 無謬性にこだわる官僚マインド(同様の問題は民間・プロフェッショナル・メディアにもある)が改革の推進を阻んでいる
  • 過去の政策と行政の総括が十分に行われていない

という3つを挙げています(本書・139-41頁)。また郵政民営化の立案を始めたときに著者は,大きな問題に関する解決策を考える方法として,合意形成の際に外すことができない基本原則を掲げる手段をとります(本書・149頁)。このような方法は郵政民営化だけではなく,政策形成過程一般に使える手段のように思われます。
筆者は最後に,政策専門家を日本社会が育成していく必要性を指摘しています(本書・340-41頁)。

経済学者や政治学者は多数いる。そしてその中には,優れた政策専門家が少数ながらいる。しかしこの点で私は,政策と経済学・政治学の関係を「庭づくり」に例える話が説得的だと思っている。庭を造るには,良い庭師が必要だ。その際,一例として植物学の知識は間違いなく庭造りに役立つ。しかし,優れた植物学者が即優れた庭師である保障はなにもない。それと同じように,経済学や政治学は間違いなく政策のために必要であり重要ではあるが,政策の専門家と経済学者・政治学者は同じではないのである。

アメリカ流の政治任用と民間シンクタンクとの行き来という方法が将来的に日本でも見られるようになるかどうかは,よくわかりません。むしろより確実な方法としては,経済学・政治学,そして法律学の専門家が,その専門の垣根を越えて交流・協力関係を構築していくことが求められているように思われました。