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Konstanz als Heimatstadt

塩野七生・ローマ世界の終焉

ローマ人の物語 (15) ローマ世界の終焉

ローマ人の物語 (15) ローマ世界の終焉

ローマ人の物語の完結です。


15巻にもわたったローマ人の物語の最終巻は,その名前の通り西ローマ帝国の滅亡の前後を扱っています。
第1部「最後のローマ人」はローマ化した蛮族出身の将軍スティリコを主人公に,その活躍と戦略,さらにはその挫折を追っています。第2部「ローマ帝国の滅亡」では,ヴァンダル族北アフリカ侵攻やフン族の侵攻によってローマが弱体化した経緯と,最終的に西ローマ帝国が消滅するまでを描きます。第3部「帝国以後」は,蛮族支配による平和(パックス・バルバリカ)の構造とその果実,さらには東ローマ帝国の皇帝ユスティニアヌスによる西ローマ旧領回復の過程を扱います。
このように扱われている内容は多岐にわたっていますが,それらに共通するメッセージもいくつか読み取れます。1つは,ローマの崩壊に至る過程において,外敵からの攻撃は大きな要素ではあっても,最終的にローマの国力を弱めたのは内紛であるということです。有能な将軍を何人も内部で葬り去ってしまったことがローマの崩壊に直結していった経過を印象的に描いています。もう1つは,平和・秩序の維持こそが経済発展の最大のインフラであること,それを維持してくれるのであれば支配者は誰でもさほど問題ではないということです。同化路線であったローマ帝国による支配と,併存路線をとったゲルマン系による支配とでは,支配の哲学は大きく異なります。しかし,被支配者にとっての懸案は「誰が」支配者かよりは「どのような」支配かである,という命題が,とりわけ第3部では何度も登場します。