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Konstanz als Heimatstadt

井原辰雄・医療保障法

医療保障法

医療保障法

医療制度改革に向けた議論の枠組構築を意図した作品です。

伊奈川秀和『フランスに学ぶ社会保障改革』,中島誠『立法学―序論・立法過程論』と続いてきた,九州大学に来られた厚生労働省出身の先生の著作です。
医療に関係する書籍の多くは現行の法制度を前提としているため,給付の部分(社会保険法)と医療インフラ整備の部分(医療法・医師法など)との連携を意識せずに書かれています。これに対して筆者は,これらを「医療保障法」というグループと捉え,問題発見のために社会権規約委員会の一般的意見に述べられている「健康権」の枠組に依拠して組み立てがなされています。このことは,既存の法制度をつきはなして制度設計を考える上でおもしろい方法です。逆に,医療に関する法制度を全く知らない状態で読むのは若干苦しいかもしれません。
個人的に関心を持ったのは,医療機関・医師・患者の法関係をめぐる解釈論(本書・133頁以下)です。説明の仕方に少しずれがありますが,おおむね私見と同じような理解での説明がなされていました。この部分における説明は従来,いわゆる「医事法」あるいは民法の研究者が主として念頭に置いている状況と,社会保険法から見た理解とにかなりのギャップがあり,整合的な説明が試みられていない感がありました。この部分で両者に配慮した説明がなされていることもまた,本書の問題関心と無関係ではないと思われました。