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Konstanz als Heimatstadt

中村靖彦・牛丼 焼き鳥 アガリクス

牛丼 焼き鳥 アガリクス (文春新書)

牛丼 焼き鳥 アガリクス (文春新書)

ここ数年の日本の「食」の問題を詳しく取り上げています。


著者の中村靖彦氏は元NHK解説委員で,食に関する著書をこれまでも発表していました。ernst@hatenaでも『牛肉と政治』を取り上げたことがあります。その後著者は,できたばかりの食品安全委員会の委員となり,本作はそこでの経験を踏まえて,現在の我が国の「食」の問題点を検討しています。
本書が取り上げているのは,BSE問題によるアメリカ産牛肉の輸入停止問題,鳥インフルエンザ発生によるタイなどからの焼き鳥の輸入停止問題,そしてアガリクスや健康食品の氾濫と(とりわけ若者を中心とする)「貧困な」食事のアンバランスの問題です。とくに牛肉の問題については,輸入の再開とその後の停止のくわしい経緯が書かれており,また全頭検査の意義と課題についても,筆者の見解が明確に示されています。
本書のもう一つのモチーフとなっているのは,筆者が委員を務めていた食品安全委員会の活動についての紹介と評価です。よく言われる評価として食品安全委員会の活動に政治的圧力がかかっているのではないかという言説がありますが,これについて筆者は全くないとしたうえで次のように述べます(本書・232頁)。

政治的圧力を云々する人は,会議が全て公開であるということの意味を分かっていない。もし変な圧力を受けたとしたら,私なら本委員会でそのことをバラしてしまうだろう。公正な議論をする上で良くないことだからである。公開の席でバラされたら,圧力をかけた方が一巻の終わりだから,誰もそんな危険は冒さない。

また委員6人の辞任劇についても,留任した側である著者は批判的です。ただし,本業との関係で食品安全委員会の活動が忙しすぎることについては,辞任した側と同じ認識を示しています(本書・238頁)。
食品安全委員会の活動の実態を把握し,それを評価する際にも,本書で述べられている内容は有用であると思います。

(追記)
その後,bewaadさんが,ご自身の経験も含めつつ大変興味深い内容のエントリを書かれておられます。こちらもぜひご覧下さい。