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Konstanz als Heimatstadt

青山七恵・ひとり日和

第136回芥川賞受賞作品です。


文藝春秋3月号(文藝春秋のサイトより)
今年の芥川賞受賞作品は「ひとり日和」です。作者の青山七恵さんは1983年生まれで,この作品の主人公「三田知寿」の設定年齢21才と近いと言えます。
舞台は駅に近いおばあさんの家。おばあさん(荻野吟子)は主人公の親戚で,主人公は母親の中国への留学をきっかけに,母との同居をやめ,このおばあさんの家にやってきます。主人公はこの話の中で2度の失恋を経験しますが,先夫に先立たれてひとりになっているおばあさんの方は,ずっと社交ダンス仲間のおじいさんと仲良くしています。主人公は感情の起伏が大きい方ではなく,また日々の生活に楽しさを見いだせずにいます。これに対し,おばあさんの方は主人公から見るといつも元気があるように見えます。これまで身の回りやそうでない世界も含め,そうした自分よりも年齢の高い方々を多く見てきたときに漠然と抱いた感情を,作者は非常に上手く文章にしています。
全体は「春」「夏」「秋」「冬」「春の手前」の5つに分かれ,主人公が上京してからの1年間が描かれます。孤独感・愛情・友情・親子関係といったさまざまな要素が並行して展開し,それらは主人公・主人公の母親・おばあさんの3人を軸に交錯します。全体の場面設定の基軸として「電車」「駅」が登場しており,それと人生とがうまく重ねられていると思いました。