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Konstanz als Heimatstadt

内山融・小泉政権

小泉政権―「パトスの首相」は何を変えたのか (中公新書)

小泉政権―「パトスの首相」は何を変えたのか (中公新書)

小泉首相論の集大成的な作品です。


小泉首相論についてはすでにこのernst@hatenaでも御厨貴『ニヒリズムの宰相 小泉純一郎論』竹中治堅『首相支配』を取り上げています。本作品はこれらの小泉首相論の内容を踏まえ,小泉政権の内政・外交政策とその歴史的な位置づけについてさまざまな角度からの記述を試みています。逆に言えば,これまでの小泉首相論ですでに語られている内容との重複部分がかなりあります。
にもかかわらず本作品が新たに提示した小泉首相論の要素は次の2つありそうです。1つは,「時間軸の短さ」です(本書・32頁)。権力資源の調達戦略との関係で,小泉前首相は短時間の時間軸を採用しており,そのため貸し借りを無視した決定ができ,それが逆に中長期的に自民党の構造に影響を与えたとしています。もう1つは,「アイデアの政治」と「利益の政治」という対立軸です(本書・179頁)。90年代以降,アイデアの政治を求めていた有権者に対し,自民党・野党ともに理念から求心力を高めることに失敗していました。細川政権や橋本政権はこれを試みたものの,長続きしませんでした。その中で出てきた小泉政権が,アイデアの政治を実現することを可能とし,先の総選挙とそれ以降とりわけ,経済自由主義中道左派という政党対立軸がやや明確化してきたことを著者は指摘しています。これらの点はいずれも何となくは感じていたところですが,本書はそれを明確に言語化していると思います。