加藤廣・明智左馬助の恋

明智左馬助の恋

「信長の棺」「秀吉の枷」に続く三部作の完結編です。

本能寺の謎に迫った「信長の棺」「秀吉の枷（上）・（下）」でいずれも本能寺の変の前後に重要な役割を担わせていた明智左馬助を主人公とする本作が，本能寺の三部作の完結編だそうです。物語は摂津の武将，荒木村重が信長に反旗を翻すところから始まります。この事件からずっと光秀は苦境に立たされ続けますが，著者の読みによればそれでも光秀は信長を殺す気ではなかったとします。光秀を動かした黒幕についてはとくに前作の「秀吉の枷」でかなり詳しく描かれているため，本作では光秀・左馬助側から見た状況が必要な限りで描写されるにとどまっています。
このため，少なくとも「本能寺」の謎解きという点からみれば，本作で前二作と比べて追加された要素はそれほど多くはありません。ただ，三部作を通してキーパーソンとなる清玉上人と左馬助の会話が，信長に対する著者の思いを投影しているかに読めます。また，本作では光秀が最終的にどうなったのかは謎のままであり，もしかするとこの続きが読めるのかもしれません。他方，荒木村重の事件の解釈など，なるほどと思わせる推理が各所にちりばめられています。