ernst@hatenablog

Konstanz als Heimatstadt

飯尾潤・日本の統治構造

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ (中公新書)

日本の政治状況を政治学的観点から考察しています。


1990年代後半から続く,日本の統治構造改革を,戦前・戦後との比較を交えながら論じています。
本書で紹介されていることの多くは,ここをご覧になっている方にはなじみ深い内容だと思います。例えば,日本の独特な議院内閣制を官僚内閣制と名づけたり,あるいは各省庁が官僚によって運営されている統治構造を省庁代表制として論じたりしている内容は,政治学行政学の分析ではよく知られています。
これに対し,著者の独自性が強く表れていると思われるのは,戦後日本でなぜ政権交代が数少なかったのかという分析です(その内容は主として「第4章 政権交代なき政党政治」で扱われています)。ひとつの要素は,与党である自民党の党内での政策決定手続が政府のそれと分立した政府・与党二元体制の中で,政策決定過程が複雑化し,それが政権交代なしの政策転換を可能としたことです。加えて自民党の総裁の交代が,擬似的な政権交代として作用したこともあげられています。また野党の側に政権交代意欲が高まらなかった要因として,自民党が利益を独占しないシステムができあがり,また野党は比較法的に見ても短い国会審議時間を梃子にして法案成立を妨げるなど,一定の政治的影響力を行使できたことにあるとします。これを制度的に担保したのが中選挙区制度であり,有権者は基本的に自民党政権を是認しながら,その行き過ぎに対するブレーキ役を野党に求める傾向が続いていたとします。
また,民主政の過程をどのようなものとして捉えるのかについて,本書は他の国との比較を交えつつ議論を進めています。大統領制と議院内閣制の対立軸の他に,本書が意識しているのは多数派民主政と比例代表民主政です。基軸となるのは,選挙の際の民意がそのまま尊重されるべきか,議会における討論のなかで「説得されて意見をかえる」ことが必要かという点です。この点で,大統領制の方が議院内閣制よりも政党の枠組に縛られないために,討論・説得の可能性は広がると著者は指摘しています(同書・107頁)。党の枠組に縛られないために,討論・説得の可能性は広がると著者は指摘しています(同書・107頁)。