ernst@hatenablog

Konstanz als Heimatstadt

斎藤兆史・努力論

努力論 (ちくま新書)

努力論 (ちくま新書)

先人に学び「努力」の方法と意義を語っています。


著者は東京大学大学院総合文化研究科准教授で,『英語達人列伝―あっぱれ、日本人の英語 (中公新書)』,『英語達人塾 極めるための独習法指南 (中公新書)』など英語の学習法に関する著作で広く知られています。本書はその著者が「『英語』の二文字が題名につかない本をはじめて書いた」(本書・193頁)という作品ですが,印象としては『英語達人列伝―あっぱれ、日本人の英語 (中公新書)』をより一般化したような内容になっています。
納豆ダイエット事件に代表されるように,最近の日本社会では努力することよりは楽に成果を得ることの方に流れる傾向があることに,著者は危惧を抱いています。そして,先人たちの努力のあり方を紹介することにより,努力することの意義や努力の方法を示すことが本書の主題になっています。本書は大きく5つに分かれており,それぞれ「立志編」「精進編」「三昧編」「艱難編」「成就編」という名前がついています。それぞれに対して先人のエピソードがふんだんにもりこまれており,努力の各段階で重要なことがそのエピソードから導き出される構成になっています。
本書の主張の中でとくに共感したことが2つありました。1つは,「型」の重要性(本書・63頁)についてです。「型」をまねることによって精進が重なっていくことの意義を本書は説くとともに,個性重視の風潮の中で型の意義が軽視されてきていることに著者は警鐘を鳴らしています。もう一つは時間の作り方についてです(本書・77頁以下)。先人たちの中には睡眠時間を極端に短くして努力をしているエピソードがありますが,著者は睡眠時間を削ることで体をこわしてしまっては意味がないとします。たしかに適正な睡眠時間は人によって大きく変わってくるので,睡眠時間を削って対応することは最終手段とし,むしろ日頃の生活の中から時間を捻出する工夫を考えた方がよいように思いました。