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Konstanz als Heimatstadt

斎藤環・ひきこもりはなぜ「治る」のか?

意味深なタイトルです。


いわゆる「ひきこもり」について書かれた本は少なからずありますが,この本は,なぜひきこもりになるのか,どのように対応すればよいのかということについて,精神分析理論を踏まえて説明しているところに特色があります。
本書によると「ひきこもり」の要素は,「自信がないのにプライドが高い」こと(本書・49頁)と,「母子密着の二者関係」(本書・52頁)の2つに大きくは縮約されるように見えます。そこから,ひきこもりへの対応策として,家族外の人とのコミュニケーション関係をつくること,家族もまた他者のように振る舞うことが提案されます。そのための具体的な働きかけとして「あいさつ」「誘いかけ」「お願い」「相談」が挙げられています(本書・142頁)。あるいは,安心して引きこもれる環境づくり,または現状維持を目指すことも提案されています(本書・167頁)。意図して変革させようとするとかえってうまくいかないことが多いという経験と,医療の基本ルールの発想からこうした考え方が提示されています。
ただし,本書には具体的にこうすれば「ひきこもり」が治るということはあまり書かれていません。それはこの本のタイトルからも読み取られることです。著者はそもそも「ひきこもり」は「治療」の自明の対象である「病気」とは異なると繰り返し述べています。にもかかわらず一定の働きかけによって「治る」ことがあるのはなぜか,ということが本書の出発点になっています。それは対人コミュニケーションの基本となる考え方であったりあるいは技能であったりするものと重なり合います。
本書がもう一つ警鐘を鳴らしていることは,現在の日本社会では若年層が親に抱え込まれているためにこの問題が社会的な問題として十分認識されているとは言い難いということです(本書・29頁)。とりわけ経済的な理由から,大きくなった子どもに構わない・構えない親が将来的に増えていけば,この問題に対する社会的取組の必要性は今後かなり大きくなってくるように思われました。