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Konstanz als Heimatstadt

梓澤和幸・報道被害

報道被害 (岩波新書)

報道被害 (岩波新書)

報道被害の問題の深刻さと,解決への構想が示されています。


センセーショナルな事件が起こると必ずといっていいほど問題になるのが集中豪雨的な報道とそれに伴って生じる可能性が高い報道被害です。本書は報道被害の問題に長年携わっている弁護士の著者が,報道被害の現状と原因,今後の対応策を包括的かつ平易に論じたものです。
本書の前半部分は具体的な報道被害の事例がたくさん出てきます。とりわけ,松本サリン事件・桶川ストーカー事件・福岡一家四人殺害事件については多くの頁数が割かれており,当時の報道の論調がどのようなものであったかが詳しく分かります。こうした報道被害の発生が鮮明に記憶されているケース以外にも,同様の問題がたくさんあることもまた本書によって明らかにされています。
その上で著者は,報道被害にあった個人の側がどのようにそれと闘うかについても記述しています。メディアとの相対交渉,仮処分・訴訟といった法的手段が豊富な具体例とともに紹介されます。この流れから著者は,報道に対する公的規制の動きへと話を進めます。具体的には人権擁護法案個人情報保護法が対象となりますが,著者はこうした公的規制には批判的です。むしろ著者の提案はメディアの自主規制(団体を使う自主規制・各メディアごとの規制システム(編集権などの問題))の拡大であり,あるいは報道業界の多元化です。
本書に書かれている内容は憲法の「表現の自由」を学ぶ際にも大きな助けになるものばかりであり,またメディアと法との関係を考える上でも有用な豊富な具体例を示してくれています。本書の魅力は,こうした内容を極めて平易な言葉で記述している点,また全体の構成が美しく読みやすいことにもあります。報道被害に関心を持つ人だけではなく,文章構成力を高めたいと思う人にも本書は役立つのではないかと思いました。