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Konstanz als Heimatstadt

松木武彦・列島創世記

旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記 (全集 日本の歴史 1)

旧石器・縄文・弥生・古墳時代 列島創世記 (全集 日本の歴史 1)

サイエンスとしての歴史・考古学の魅力を改めて教えてくれます。


昨年秋から刊行が始まった小学館の『全集日本の歴史』シリーズは全16巻,2009年3月までの予定で次々と刊行されることになっています。本書はその1冊目で,旧石器・縄文・弥生・古墳時代をカバーしています。
全集となっている以上,これらの時代が通史として取り扱われるのは当然ですが,本書はタイトルの付け方や構成を工夫して,通史としての色彩が強くなりすぎないように配慮しています。また,従来あたりまえのように言われていた内容に対しても,本書は再考を促しています。例えば縄文時代は経済格差がない時代だと考えられてきましたが,実は縄文時代儀礼などから考えると経済格差をないように見せるという意味もあったのではないかと本書は主張しています。また,古墳時代においてなぜ中国大陸に近い九州よりも遠い近畿で大きな古墳ができたのかについて,本書では「鉄」を手に入れることが相対的に難しかったという近畿の地理的条件と,縄文時代以来の共同作業の文化が近畿では弥生時代も続いていたことを理由としています。
このように本書は,従来の旧石器から古墳時代までのイメージを各所において再考する作業をしていますが,その際に重視されている要素は,人間の心理や欲望といった側面に注目すること,また地球環境の変化(特に温暖化・寒冷化)を勘案して歴史の展開を考えることの2つです。本書が扱っている時代は無文字時代であり,まさに考古学の本領発揮が期待される時代ですが,その手がかりとしてこうした要素を導入することにより,歴史学とくに考古学のサイエンスとしての側面を改めて意識させることに成功しています。