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江川由紀雄・サブプライム問題の教訓

サブプライム問題の教訓―証券化と格付けの精神

サブプライム問題の教訓―証券化と格付けの精神

サブプライム問題の背景にある証券化と格付の問題について扱っています。


世界を震撼させた(させている)サブプライム問題は,その名前の割に問題の本質や背景がよく分からないところがあります。それはおそらく,「証券化」という方法によってリスクが世界に分散し,その結果として世界の経済に影響を与えたところにあるのだと思います。本書はその「証券化」とその際に重要な役割を果たす「格付け機関」について専門性の高い議論をしています。冒頭から専門用語や略語が次々と出てくるため,読みやすい入門書というわけでは決してありません。
それでも読み取れた本書の主張を整理すると,次の2点ありそうです。1つは,俗に「サブプライム問題」と呼ばれている問題は,正確な言葉の意味における「サブプライム」の問題を遙かに超えて,それにより引き起こされたと見られる経済上の諸問題を総称しているため,問題の射程が見えにくくなっているということです(本書・44頁以下)。もちろん,サブプライム問題が低・中所得者層に対する住宅の貸付競争(日本のバブル期を思い起こさせます)から始まっていることは否定できませんが,それが実体経済に与える影響は限定的なはずだと見ているようです。
しかしもう1つの主張として,金融工学と呼ばれる技術を使ったさまざまな金融商品がグローバル経済に与える影響を直視し,金融商品の設計に携わるプロフェッションの自覚を高めることを訴えている点も注目されます。サブプライム問題ではローンの貸し手とリスクの負担者があまりに遠くなる構造,しかもその過程が見えにくいことが大きな問題とされました(本書・79頁以下)。これに対しわが国においては金融商品の設計はなお中庸の枠内にとどまっており,それは維持されるべきであると著者は述べています(本書・218頁以下)。高い技術性と数学的な手法を用いる証券化は実は人間臭い営みなのであるとする著者の主張(本書・225頁)は,本書全体を読み通すと大きな実感として伝わってきました。