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Konstanz als Heimatstadt

堤未果・ルポ貧困大国アメリカ

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

貧困が戦争に繋がるアメリカの構造を衝撃的に描いています。


アメリカ大統領選挙予備選挙が佳境を迎え,またサブプライム問題が日本でも大きく取り上げられる中,アメリカ社会の現状を鋭く捉えた作品が本書です。
本書は5つの章からなっていますが,前半と後半で大きくカラーが違います。第1章「貧困が生み出す肥満国民」,第2章「民営化による国内難民と自由化による経済難民」,第3章「一度の病気で貧困層に転落する人々」の前半3章では,アメリカ社会の現状を,フードスタンプとファーストフード,ハリケーンカトリーナの被害の背景,高騰する医療費と医療保険の機能不全の3つの事例で説明しています。そこで共通して描かれるのは「中流」家庭が社会から消滅していったアメリカの様子です。
後半の2章(第4章「出口をふさがれる若者たち」,第5章「世界中のワーキングプアが支える『民営化された戦争』」)では,そうした経済構造の変化が中流層の経済的な転落に繋がり,さらにはそれが軍へとつながっていくというメカニズムを明らかにしています。民営化された戦争,つまり戦争がビジネスとして,あたかも「派遣」と同じように展開されているという問題は,民営化関連の論文でも断片的にはしばしば目にするところです。ただ(アメリカ人にとっては一般常識に属しているのでしょうから)そうした論文だけを見ていては,全体のシステムやそれが持っている問題を実感を伴って掴むことはできません。本書の最大のメッセージはこの部分についてさまざまな事例を挙げて現状を説明しているところにあるように思われました。