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碓井光明・政府経費法精義

政府経費法精義

政府経費法精義

「精義」シリーズの3作目は,給与や交際費などの問題を扱っています。


公共契約法精義』『公的資金助成法精義』に次ぐ第3作目は『政府経費法精義』と題されていますが,政府経費の全てが対象となっているわけではなく,その中でも給与・接待・交際費といった政府部門の活動のために通常の活動をしていくのに必要な経費に注目しています(本書・2頁)。さらにこれらの手続面よりはむしろ,住民訴訟判例によって形成された実体的ルールに焦点を当てることで,いくつかの法原則を提示することを可能にしています。
本書の特色は大きく次の2つに分けられます。第1は,住民訴訟判例・裁判例を丹念に渉猟した上で,これらを実体法的に分析していることです。行政法の授業でも,例えば情報公開を説明する際には交際費や給与に関係する文書の情報公開判例を説明することがあります。ただしその多くはあくまで情報公開の手続や開示の実体ルールを説明するためであって,公金支出そのものについての実体的ルールを説明しているわけではありません。これに対し本書は,公金支出の実体ルールを住民訴訟判例から明らかにし,同時に最近の時事的問題(裏金問題・報奨費問題など)にも言及しています。例えば特定のテーマについて調べたいという場合には,これほど心強い体系書はないと思います。
第2は,財政法の観点から従来あまり議論されていなかった領域にも踏み込んでいることです。例えば本書第6章は「政治と政府経費」と題され,政党交付金や地方議会の政務調査費の問題が詳しく扱われています。議員歳費や年金についても併せて議論されています。さらに本書第7章「政府経費の外延」では公共団体に対する損害賠償請求の問題や,見舞金・損失補償契約といった問題が,関連する裁判例とともに論じられています。もともと本書が対象とする「政府経費法」自体,これまで十分に議論されてきたとは言えない領域ですが,本書はその部分にとどまらず,その延長線上にあるさまざまな政府経費についても理論的なアプローチを試みていると言えます。