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Konstanz als Heimatstadt

鐘江宏之・律令国家と万葉びと

律令国家と万葉びと (全集 日本の歴史 3)

律令国家と万葉びと (全集 日本の歴史 3)

中国文明との関係の中で日本・日本人のアイデンティティを確立していった過程が描かれます。


小学館の全集日本の歴史の3巻目は,飛鳥・奈良時代を取り扱っています。過去の2冊と比べると,飛鳥時代以降は文字による記録が残っている時代であるため,それまでのスタイルとは大きく変わるのかと思っていました。しかし読んでみると過去の2冊と同じく,政治的な事件よりは社会の変化・環境の変化を重視した記述になっています。
本書が中心として取り上げているのは,この時代における東アジア情勢の中の日本という位置づけです。文字・時間・歴史がはじまるこの時代においては,中国や朝鮮半島におけるパワーバランスの変化を受けて,日本の社会や制度が朝鮮半島方式から中国方式へと切り替わってきました。また大陸からの渡来人が日本社会の中に組み込まれたのもこの時代です。こうした時代背景の方にむしろ注目して政治的な事件のバックボーンを示そうというのが本書の狙いのように思われました。中でも興味を惹いたのは,百済からの渡来人が当時蝦夷と呼ばれた東北地方への進出に大きな役割を果たし,また日本最初の金の発見にも大きく貢献していることです(本書・124頁)。渡来人が日本社会においてどのように位置づけられ,どう変容していったかという問題は,今後とも議論が深められるべきテーマだと思いました。