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Konstanz als Heimatstadt

中村宗悦・後藤文夫

後藤文夫―人格の統制から国家社会の統制へ (評伝・日本の経済思想)

後藤文夫―人格の統制から国家社会の統制へ (評伝・日本の経済思想)

新官僚の危機意識と挫折を描いています。


後藤文夫は1884(明治17)年に大分市で生まれ,内務省を経て,昭和恐慌の際には農相,2・26事件の時には内務相の地位にありました。本書は新官僚の代表とも言うべき後藤文夫の人生をたどりながら,昭和史における新官僚の歴史的な意味を問い直す内容になっています。
後藤文夫は当初は政友会系の官僚として見られますが,のちに民政党寄りの政治的立場をとります。台湾総督府総務長官時代には台湾銀行問題で公的資金投入を推し進め,また昭和恐慌の際の農相時代にも,経済更正計画に代表される地方への積極的な財政支出政策をとっています。本書ではこれらは必ずしも後藤文夫ら新官僚の一貫した政策というわけではなく,当時の状況判断やさまざまな政治勢力間の相互作用の結果であると説明しています。また産業組合運動に代表される当時の新官僚が関与したとされる運動についても,大衆動員的な色彩を出そうとした結果,上からの統制やスローガンの多用傾向が強くなってきたと指摘します(本書・161頁以下)。危機対応の様々な思想が最終的に総動員へと帰結した理由の分析としておもしろいと思いました。
後藤文夫はさらに,2・26事件の際には内相の地位にあり,天皇の強い意向を受けてクーデターを収拾することに尽力しています。その後も新体制運動・参議院緑風会における活動と政治活動の場は続きますが,戦前型の政党政治の病弊に対する強い抵抗感で貫かれているように見えます。官僚と政治との距離の取り方をどう考えるかという問題についても,本書が示している後藤文夫の一生は示唆を与えるものになっているように感じました。