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Konstanz als Heimatstadt

富坂聡・中国の地下経済

中国の地下経済 (文春新書)

中国の地下経済 (文春新書)

中国経済の裏の側面を詳細にリポートしています。


尖閣諸島で起きた衝突事件は,日本経済が世の中で認識されている以上に中国経済に依存していることを意識させました。中国経済リーマンショック以降も堅調な伸びを示し,今年は日本の経済規模を抜いたとさえいわれています。本書はその中国経済の裏の側面である「地下経済」を取り上げています。
地下経済といっても,日本語のもつイメージとはやや異なっています。地下経済は当局が認めていないお金の流れですが,一般庶民の経済生活,とくに金融面では大きな役割を担っていると本書は指摘しています(本書・34頁以下)。そこには情報のネットワークと,表の世界の手段には頼らない執行手段とが存在しているといいます(本書・60頁)。他方で,地下経済が全く黒の世界と無縁かというとそうではなく,マフィアとの関係や官僚との関係などの指摘も本書は忘れていません。
本書の最後に著者はとても興味深い指摘をしています(212頁以下)。著者は中国の民主化によって中国がより分かりやすい国になるのは「誤解」だといいます。その理由は,例えば反日問題に見られる社会の獰猛なエネルギーは共産党というフィルターを通してむしろ抑制されてきたのだというところにあります。中国社会の構造や今後の方向性を考える上で,本書が描写している地下経済の現状を知ることは極めて有益なように思われました。