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金子勝・新・反グローバリズム

新・反グローバリズム――金融資本主義を超えて (岩波現代文庫)

新・反グローバリズム――金融資本主義を超えて (岩波現代文庫)

先行き不透明な日本社会に指針を与えてくれます。


2008年の金融危機以降,日本社会の先行きは再び不透明感を増しています。本書は,1999年に刊行された『反グローバリズム』に書き下ろしの原稿を加えた文庫本であり,現在の経済構造の分析とそれを前提とした提言を含んでいます。
金融部門の暴走,回復基調に向かわない景気,安定しない雇用関係,続く輸出依存...本書を読むとこれらがばらばらに生じているのではなく,グローバルスタンダードへの収斂とモラルなき金融資本主義がこうした結果をもたらしていることが理解できます(本書・35頁以下)。金融政策や金融行政に対する本書の視点は極めて厳しいものがあります。
こうした諸問題の解決策として本書は,セーフティーネットの整備とアジアでのリージョナル戦略を挙げています。シンプルには「マネーの暴走を食い止め」「エネルギー転換に伴う爆発的な更新投資・更新需要を一斉に引き起こそうという戦略」(本書・284頁)と整理されていますが,「持続できる社会」というキーワードで論じられている問題は極めて広範で,エネルギー政策・食料農業問題・地域政策・社会保障・雇用・教育など多岐にわたっています。本書の示す指針は明確なものですが,そこに付随する問題は様々な局面で絡み合っており,そこに日本社会の問題の根深さを改めて感じずには入られません。