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Konstanz als Heimatstadt

木庭顕・ローマ法案内

ローマ法案内―現代の法律家のために

ローマ法案内―現代の法律家のために

現代の法概念とローマ法との深いつながりを改めて認識できます。


本書はローマ法の教科書ではありません。本書の狙いはそのはしがきに明確に書かれています。

本書の著者はローマ法に対して産業保護的関心を有しない。そもそもローマ法学者でない。ローマ法などどうでもよいと考えている。実際,ローマ法に対する需要はゼロである。需要を喚起する意味ある供給はゼロである。ローマ法学が死滅しつつあることは周知の事実である。伝統文化保存の観点からこれを嘆くという考え方を著者は全く持たない。博物館に保存するのであれば,もう少し価値のあるものに限るべきである。
それでも著者がローマ法について書くのは,「新鮮なローマ法」に関する限り,少なくとも現代の法律家にとって必要である,と認識したからである。ここが新鮮でないからわれわれの料理自体(法および法学)が新鮮でない。新鮮な料理は今必要とされている。われわれがそれを欲している。

一見したところ形容矛盾である「新鮮なローマ法」とはどういうものであるかは,本書を少し読んだだけでも分かってきます。例えば,権力分立や裁判作用のキータームの背景には,ローマ法の三種類の民会や政治的決定と裁判作用の相対的分離の歴史がある(本書・26頁以下)ことが分かると,混迷したこの領域の議論に一筋の光が差し込んできます。同じような作業は民事法・刑事法についても行われており,民事法の基礎的な概念,例えば「契約」「所有権」「不法行為」といったものがどのような基盤ではじめ議論されていたのかを知ることで,現在の議論状況に一つの座標軸を設定することができます。
本書は,著者がこれまで出版してきた研究書を基盤に,これを現代の法的問題とつきあわせて再構成したものと言えます。著者は分野を問わず僕と同世代の研究者に多大な影響を与えていますが(「木庭シューレ」と呼ばれているようです),本書を読むと,なぜ広範囲の若い研究者に絶大な影響力を持っているのかの一端が分かります。決して読みやすい本とは言えませんが,明確な問題意識を持って読めば応えてくれる要素を必ず含んでいる著書のように思われました。