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Konstanz als Heimatstadt

曽和俊文・行政法執行システムの法理論

行政法のエンフォースメントをめぐる議論をリードしてきた著者による研究の集大成です。


行政上の義務履行確保の分野は,年を追うごとに取り扱うべき論点が増えていっている印象があります。その同分野の議論をアメリカ法の幅広い考察を踏まえて長くリードしてきたのが曽和先生です。本書はこれまでの同分野における業績に加えて書き下ろしの2章も含まれている論文集です。
書き下ろしとなった2章は「シビルペナルティをめぐる法的諸問題」と「行政上の義務の司法的執行」です。前者は,わが国における課徴金・加算税などに相当するアメリカのシビルペナルティを包括的に研究したものです。わが国の課徴金のしくみとよく似た金銭賦課のしくみがアメリカにあることはよく知られており,環境法など特定分野については詳細な紹介がこれまでもなされてきました。これに対して本章は,より包括的にこの問題を取り扱っており,シビルペナルティの全容がよく分かる内容となっています。シビルペナルティの機能や憲法上の限界の議論は非常に刺激的な内容でした。また後者は,宝塚市パチンコ店事件最高裁判決を批判する内容ですが,アメリカにおける司法的執行の法原則との関係や,民事訴訟で争う場合の請求権の構成方法についても論じた論文です。従来議論が必要とされながらあまり論じられてこなかったこの2つの要素が加わり,この問題をより正確にとらえることができるようになっています。
さらに,本書の末尾には補章として,各論文の発表後に公表された参考文献が,著者のコメント付きで紹介されています。対応する論文と合わせて読めば,現段階における最新の議論状況や必読文献が把握できる仕掛けになっています。