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Konstanz als Heimatstadt

日曜閉店の国ドイツ

聖夜前の日曜開店は違憲,ドイツ 憲法裁判所,小売業規制で
【ベルリン共同】ドイツ連邦憲法裁判所は1日,ベルリン市が百貨店やスーパーなど小売店に日曜日の営業を認めた条例に関連し,クリスマス前の4回の日曜日営業については「憲法違反」とする判決を下した。ただ,今年は同期間の営業が許される。
同市は2006年12月,完全休業だった日曜日の営業規制について,年10回,午後1時から同8時までに限り認める条例を施行。信者の足が教会から遠のくとして,キリスト教の主要各派が違憲だと訴えていた。
判決で裁判長は「日曜や祝日は『安息日』であることを明確にしなければならない」と指摘。その上で「クリスマス前の日曜日に7時間の営業を認める重大な理由はない」とし,販売増や利便性を優先する業者らの主張を退けた。
ドイツでは半世紀前,労働者保護を目的に,小売店の営業を定めた「閉店法」で日曜日や祝日の営業を原則禁止。徐々に規制が緩和されていた。

共同通信の1日付記事からです。


すでによく知られたことではありますが,ドイツでは一般に日曜日にはお店が開いていません。ただしこれには例外があって,

  • 観光地の一部の店
  • 駅や空港内の店
  • ガソリンスタンド(Tankstelle)

は日曜日もあいています(観光地の一部の店は代わりに月曜日を休みにしているところが多いようです)。またそれ以外の一般の店についても,年に数回,買い物日曜日(Einkauf-Sonntag)と呼ばれる日曜日があり,この日にはお店が開いています(サマータイムに切り替わる日やアドベントの始まりの日などです)。今回の判決は,この閉店法制で最もリベラルだと言われるベルリン州が舞台となりました(なお記事では条例となっていますが,ベルリン州法の誤りです)。
日本からドイツに来たばかりの時は,日曜日に店が開いていないことに大きな抵抗がありました。もちろんドイツには24時間営業という便利なお店はありませんから,買い物は計画的にやっておく必要があり,急な需要は我慢しなければなりません。しかし,このリズムになれると,日曜日は買い物以外の時間の使い方をするようになり,さほどの問題は感じなくなりました。逆に時々日本に帰ったときに,「あれ,お店は日曜も開いていただろうか」と考えるようになってしまいました。
店の閉店時間・曜日を法律で決めるなんてなんとおせっかいな国なのか,あるいはその背景に宗教的な理由があるのはなんと自由のない国だろうか,とはじめは思っていましたが,事情はそう単純なものではありません。この判決を報道したTagesthemenのコメント(日本語訳してみました)を読むとその一端が分かります。

ドイツ社会の行き過ぎた商業主義に対する勇気づけられるストップの信号であるこの訴えでは,中小の小売業者の利益,つまり人間の尊厳が,荒れ狂う資本主義のこの法律よりも上位に置かれました。これが今日のカールスルーエの連邦憲法裁判所の判事たちの判断でした。
すでに今日過剰なまでに拡大した平日の店の開店時間は,多くの小売業者にとっては,十分な報酬の支払われることのない搾取になってしまっていると言えます。
長時間の開店時間によっては普通フルタイムの労働の場は生まれず,顧客の量に合わせるために期限付で働く低賃金の労働者が大量に生まれてしまいます。
また,買い物日曜日が景気を刺激するということもメルヘンにすぎません。ベルリンでは実際,消費の拡大が起こっていますが,それは周辺地域から旅行者を吸い上げているからで,周辺地域の店では著しい損害を被らざるを得なくなっています。全体として見れば,買い物の時間が多くなったからといって,買い物に費やす金額が増えるとは言えません。
小売業者の70%が女性です。多くは子どもを抱え,骨の折れる仕事と並んで家族の面倒を見るのはすでに十分困難なことです。買い物日曜日は一方では買い物の機会を増やしますが,そのコストはこうした人たちが支払っていると言えます。
聖書の中にちょうどよい表現があります。信者もそうでない人も「祝日は大切にせよ」と。

つまり閉店規制は単に宗教的な背景だけではなく,労働者保護の要素も強い問題です。またより広くその社会の雇用政策の問題とも関わっています。ドイツ人は週末や余暇を大切にし,家族で出掛けるのを好みますが,実はその背景にはこうした閉店法制が存在しており,このような制度的な後ろ盾なくして,「よい週末を!」が金曜日以降の挨拶になる社会は生まれてこないのだろうと思います。
もちろんその社会が良い社会かどうかは判断が難しい問題です。キリスト教国だからといって日曜閉店の法制を採用しているとは限りません(アメリカは全く逆の方向ですし,カトリックポーランドにも実は日曜閉店法制がありません)。ただ,店を一斉に閉めるという方法は,単に宗教上の理由やおせっかいではなく,もっと大きな問題と関わっているのだということが分かるのが,この憲法裁判所の判決のように思われました。