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Konstanz als Heimatstadt

赤川学・子どもが減って何が悪いか!

子どもが減って何が悪いか! (ちくま新書)

子どもが減って何が悪いか! (ちくま新書)

男女共同参画社会が進むほど,出生率が高くなる…という最近厚生労働省やその他の学者が主張している内容は統計学的に見て問題があるとの主張を本書は展開しています。統計の取り方や何を「外れ値」にするかによって統計上の数字は内容を全く変えてしまいます。このようなリサーチ・リテラシーの入門的知識が本書の前半では展開されています。
後半では,なぜ少子化が進むのか,少子化に対する対応策はどうあるべきかといった政策提言が中心となります。そこでは,少子化それ自体を止めるのは不可能であること,それゆえに出生率の低下を前提とした政策形成がなされ,その際には選択の自由と負担の公平に配慮した設計がなされるべきことが主張されています。

男女共同参画社会それ自体は今後の社会像であるとしても,それと少子化との関係については僕自身も疑問に思っていました。同書はこのふとした疑問を丁寧かつ明確な論旨で解明してくれます。また,制度設計にあたっては,ある一定の選択が不利益を受けることのないように配意すべき事は,行政法学の文脈から見ても重要な指摘であると思います。

「子どもの数は,減ってもかまわない。そのかわり,ライフスタイルの多様性が真の意味で確保される「選択の自由」と「負担の分配」に基づいた制度が設計されていれば,それでよいのだ。」(同書・210-211頁)
「子どもは,親や周囲の人たちから愛されるために産まれてくる。それ以外に,産まれる理由は必要ない。」(同書・217頁)

同書の持つメッセージには僕も基本的に賛成します。ただ,(根が行政法学だけに)もし少子化の原因に制度的な問題による子育てのしにくさがあるのだとしたら,それを除去するのもまた法律学・政策学の課題であると考えます。同書の視点を生かしつつ,少子化の背景にある問題の解決が図られる途をさぐりたいというのが本音です。