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Konstanz als Heimatstadt

吉岡忍・奇跡を起こした村のはなし

奇跡を起こした村のはなし (ちくまプリマー新書)

奇跡を起こした村のはなし (ちくまプリマー新書)

新潟県の山間地域にある「黒川村」は人口7000人の小さな村ですが,高度成長期以後も人口が減少することはなく,逆に微増を示しています。本書はこの秘密を解き明かすことを主題としています。

その秘密とは,国の様々な補助金を利用した村営施設の建設にありました。スキー場をはじめ村内にはさまざまな施設があり,若い労働力が都会へ流出するのを防止しています。これを推進したのが日本有数の長期政権で知られた伊藤孝二郎村長でした。若い頃に起きた水害への対応の中で,補助金の利用方法や中央省庁とのパイプの重要性を認識した村長は,これらのプログラムをうまくつかって村の過疎化を食い止めました。

農村地域に対する補助金の問題は,現在ではネガティブなイメージを与えます。本当に役に立つものを作っていない,無駄遣いしているといった批判はしばしば聞かれます。そうした中で同書が紹介する事例においては,ただ施設をつくればよいというのではなく,それをどのように活用すれば雇用が産まれ,村に観光客が来てくれるかを深く考えていることがわかります。補助金のポジティブな側面を再認識させてくれる記述となっています。
バブル崩壊以降の我が国では,繁栄の中心地が極端に少なくなり,地方都市や大都市の中心地以外では商業基盤が崩壊する事態となっています。もちろん補助金で全てを解決する時代ではないのですが,地域振興の一つのモデルケースとして同書の描く内容は参考になるように思われました。