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小山剛=駒村圭吾編・論点探究憲法

論点探究 憲法

論点探究 憲法

かなり時機に遅れたレビューですが…。


ロースクール時代に入って課題として再認識されているのが,基本書・ケースブックのさらに上の水準である上級の演習書の開発です。もちろんこれまでも,例えば有斐閣法学教室の「演習」を単行本にした本(公法で言えば芦部信喜・演習憲法塩野宏=原田尚彦・演習行政法など)などが存在していました。今回取り上げる論点探求憲法は,必ずしもロースクール向け専門の演習書ではないのですが,内容から見れば学部生のかなり上級者向け以上を読者層としていると思われます。
同書は14人の気鋭の憲法学者が33の問題に答える形式になっています。解説には脚註が付いている上に,各節の最後にはFurther Readingsと題して,その章に関連する代表的な論文が挙がっています。複数の憲法研究者による憲法の概説書としては他にも例えば

ブリッジブック憲法 (ブリッジブックシリーズ)

ブリッジブック憲法 (ブリッジブックシリーズ)

がありますが,こちらに比べると扱っているテーマも記述もかなり高めです。
通常の憲法の教科書ではあまり解説が尽くされていないテーマについてかなり細かく説明されている項目として,例えば,

  • 「人権の国際的保障」(齋藤正彰)
  • 「信教の自由と政教分離」(小泉良幸)
  • 「代表概念」(毛利透)

があります。基本書ではよく分からないという場合には読んでみるとよいと思います。
他方,通常の論文集に載っていてもおかしくないレベル・内容を持つものも多くあります。例えば,

  • 「国家目的と国家目標規定」(小山剛)
  • 「財産権①②」(石川健治
  • 「行政権の概念」(毛利透)
  • 司法権の概念」「違憲審査制」(宍戸常寿)

はいずれも(各著者の過去の論文をベースにしているとはいえ)知的好奇心をかなり刺激する内容です。石川先生の項目についてはすでにid:dpi先生がいくつか表現を抜き書きして紹介されているところですので詳細は書きませんが,大著『自由と特権の距離』の中では説明が若干薄かったヴォルフの法制度保障論について,既得権の概念についての分析を踏まえつつかなり分かりやすく説明されています。同書については長谷部先生の法学教室連載(B助教授)でも近時かなりかみ砕いた説明がなされましたが,石川先生の今回の作品もまた,同書を理解する上では大きな助けになるものと思われます。