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大村敦志・父と娘の法入門

父と娘の法入門 (岩波ジュニア新書 (519))

父と娘の法入門 (岩波ジュニア新書 (519))

この界隈でも話題になっている本です。


大村敦志先生の最新著作は,これまでの論文集・教科書とは違う新書というジャンルです。あとがきによれば,対話形式による法学の入門書は,フランスで出版されている同種のシリーズや,『法窓夜話』(!)をヒントにしているのだそうです(同書・208-209頁)。
本書はその名の通り,父と娘との対話によって,法学(正確に言えば法学ではなく,社会のルールとしての「法」)を語る構成です。全部で12ユニットありますが,その全てが動物に関する話になっている点が面白いです。こと動物の法制について言えば,かなり高度で詳細な内容(「入門」とは言い難いような)まで,しかし平易な言葉で語られています。

父 そうだけど,民法は「落し物」専門というわけじゃない。これもいい機会だから,ここでちょっと民法について説明しておくよ。
憲法は,個人の人権と国の仕組み,刑法は犯罪と刑罰について定めている法律だね。ここまでは誰もがよく知っていると思う。これに対して,民法というのは,「民のくらし」=市民の日常生活についての基本ルールを決めているんだ。その中身は大きく分けると,契約関係や財産に関するルール(取引のルール)と家族関係や相続に関するルール(家族のルール)なんだ。「落し物」の話はちょっとマイナーだけど,財産に関するルールの一つだし,いま話題にしている親権は家族関係に関するルールってことになる。
娘 「民法学者」のパパは,「落し物」の研究ばかりをやっているわけじゃないってことね。『契約法から消費者法へ』とか『消費者・家族と法』とか書いているもんね!
父 パパの本の宣伝をしてくれてありがとう。
娘 本が売れれば,お小遣いも増える☆
父 ということはないけどね。 (同書・55-56頁)

扱われている法領域は(当然ながら)民法が最も多いですが,トレーサビリティーに関する内容や児童虐待,自然保護といった行政法に関する記述もかなりあります。難しい言葉をほとんど使わずに,しかし内容としては比較的抽象度の高いテーマ(法人・法律行為など)をクリアに説明している点は,例えば法学入門についての授業をする場合に有益なヒントとなりそうです。時間がかからずに読めてしまうのですが,ひとつひとつの表現には,大村敦志先生のこれまでの著作(とりわけ,『生活民法入門』や『生活のための制度を創る』などの作品)で示されている研究が反映されており,その内容を思い起こしながら読むと,深い世界を感じさせてくれる入門書となっています。