- 作者: 鎌田浩毅
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/09/20
- メディア: 新書
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自然災害にはさまざまな種類がありますが,中でも火山噴火は地域に及ぼす影響が甚大で,地球が持つエネルギーの強さと怖さを思い知らされます。本書はその火山噴火のメカニズムや火山による被害の減災方法を説明しています。
火山噴火による災害としては,溶岩流によるもの,火山灰や軽石によるもの,さらには火山ガスによるものがあります。本書の第1章はそれらを科学的に説明しています。とくに火山ガスの中では,一定以上の濃度になった二酸化炭素が人や家畜を死に至らしめることがあることが紹介されています。ただ,磁気や地電流,あるいは火山ガスの変化を見ることにより,火山噴火の予知はかなりの程度成功するようです(第3章)。活断層によって引き起こされるタイプの地震とは違い,火山の場合には予知の技術を使った避難がある程度期待できることが分かります。また近くに海などがあれば,大量の水を放水することにより溶岩流の流れを変えることもできなくはありません(第5章)。本書を読むと,減災のための手がかりが火山についてはたくさんあることがわかってきます。
日本列島は火山列島とも呼ばれ,火山の噴火にともなう悲劇がしばしば起こります。しかし本書は,火山の存在を悲観的に見てはいません。
噴火災害を乗りきったあとには,かならず火山の恵みが来るのである。ここには,「火山の災害は短く,その恵みは長い」という法則があるのだ。噴火災害は比較的短い期間に発生するので,これを噴火予知など科学の力を用いてやり過ごす。これに成功できれば,そのあとには長期間の恩恵を享受することができるのである。(本書185-186頁)
たしかに,火山によってできた地形は風光明媚な場所として観光スポットになり,また知名度の高い温泉地の多くは火山の近くにあります。噴火予知やハザードマップなどの工夫により,火山噴火の被害を最小限に抑えることができれば,火山噴火もまた自然の恵みと言えます。
本書はいわゆるアウトリーチ活動に積極的に携わる著者によって書かれています(はじめに・iii頁)。分かりやすい言葉で価額の最先端を説明している本書は,アウトリーチ活動の参照モデルとしての価値をも持っていると思いました。