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Konstanz als Heimatstadt

伊関友伸・まちの病院がなくなる!?

まちの病院がなくなる!?―地域医療の崩壊と再生

まちの病院がなくなる!?―地域医療の崩壊と再生

自治体病院の現状と今後のあり方,医師不足への対応について詳しく論じています。


本書が扱っているのは自治体病院の現状です。県立病院などの民営化が最近さかんに新聞などで報道されるようになっています。本書はなぜ自治体病院が消滅しようとしているのか,その原因を大きく2つの観点から分析しています。
1つは,自治体病院の経営の観点です。興味深いのは本書の著者が,財政破綻で知られるようになった夕張市の市立総合病院の経営診断を行った上でその原因を分析していることです(本書・93頁以下)。夕張市財政破綻の直接の原因はこの病院特別会計にあったことは広く知られていますが,そうなってしまった原因は必ずしも夕張市に特徴的なわけではなく,全国のどこでもおこりうると著者は警鐘を鳴らしています。その上で改善策として,地方公営企業法地方独立行政法人PFI・経営譲渡などの方法を採り上げ,利点と問題点を説明しています。
もう1つは,医師の確保の観点です。これは必ずしも自治体病院だけの問題ではなく,広く勤務医の待遇問題であったり,フリーアクセスがもたらした負の側面の問題をも含めた議論になっています。本書は住民・自治体・地方議会・国ができること・すべきことを具体的に提言しています(本書・173頁以下)。
著者は埼玉県職員であった経験から,地方自治体が経営する病院の問題についても実務の視点をもっています。それを活かしながらさまざまな観点から自治体病院の問題を検討している点が,本書の注目点だと思います。