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Konstanz als Heimatstadt

平川南・日本の原像

日本の原像 (全集 日本の歴史 2)

日本の原像 (全集 日本の歴史 2)

古代の「生活」に焦点を当てた記述は新鮮です。


小学館日本の歴史』シリーズの2冊目は,弥生時代から平安時代前期にかけての「古代史」を「生活」の観点から描いた作品となっています。第1巻と同じく,自然環境の変化と人間社会の歴史とを対比させるアプローチが見られます。
本書の冒頭では,古代における「御触書」である「加賀群牓示札」が取り上げられます,そこには朝4時から午後8時まで働け,といった内容や,農民がほしいままに魚酒を飲食することを禁止する,と書かれています。これらがなぜ必要とされたのかを解き明かしながら,古代社会の特色を本書は説明していきます。
本書では,従来よく見られた古代史の説明方法に対していくつか新しい説明を提示しています。「天皇」号のおこりについて,本書では則天武后時代に実権を失っていた「皇帝」の称号として用いられた「天皇」にヒントがあるのではないかと説明します(本書・48頁)。また,平城京から長岡京に遷都してわずか10年でなぜ平安京に遷都したのかについて,本書は平城京を一気に廃都にすることが困難であったことから,まず平城京の副都である難波京長岡京遷都と同時に廃都とし,段階的に平安京へと移るプロセスを考えていたのではないかと述べます(本書・114頁)。さらに日本の古代社会では中国で短期間しか使われなかった則天文字が使われている例が見られるとします。現在でも使われる水戸光圀の「圀」は,八方に領土を広げるという意味の則天文字であり,現在まで使われている唯一の例なのだそうです(本書・199頁)。
古代人の生活実態について知りたい場合にも,また従来の古代史の説明に飽き足らない場合にも,本書が示している古代史像は強い関心を惹くものとなっているように思われました。