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Konstanz als Heimatstadt

吉岡桂子・愛国経済

愛国経済 中国の全球化(グローバリゼーション) (朝日選書)

愛国経済 中国の全球化(グローバリゼーション) (朝日選書)

中国社会の現状と課題が具体的に分かります。


北京オリンピックチベット問題,四川大地震など,中国に関するニュースは毎日のように報道されています。著者は朝日新聞記者で4年半中国に住んでいました。その経験を踏まえ,中国社会の現状をさまざまな観点から分析しています。
本書はまず新幹線から話が始まります。中国の高速鉄道をめぐる日本と中国とのやりとり,あるいは中国国内での動向や中国の狙いを説明する中で,日中関係における現状の一断面が示されます。
本書は様々な問題に言及していますが,それを最も縮約していると思われるのは,著者が言う「二つの壁」(本書・212頁)です。1つは,中国製品の魅力は安さにあり,それは環境や安全への投資をしないことによって得られていると言うことです。世界の消費者が安さを求めるか,安全や環境を求めるかという問題が中国の今後の社会のあり方にも関係するということです。そしてもう1つは,法治の欠如という問題です。自国の製品が他国で不合格になるとその報復として製品管理のルールの運用を変更する現象がしばしばみられると著者は指摘しています。
本書はまた,2005年の大規模な反日デモについても詳しく取り上げています(本書・313頁以下)。それを踏まえ,両国関係の安定に必要な要素として本書は,人的交流の拡大を挙げています(本書・339頁)。現に日本・中国相互での人の行き来や定住者はここ数年で急速に増えています。このような関係の重層化が,両国関係の安定には必須であると本書はまとめます。四川大地震で日本の救援隊が派遣されたことは,この観点からは非常に大きな意義があることだと思います。
断片的に入ってくることが多い中国社会の現状を一つの像として提示してくれるところに本書の大きな魅力がありそうです。