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Konstanz als Heimatstadt

竹井隆人・集合住宅と日本人

集合住宅と日本人―新たな「共同性」を求めて

集合住宅と日本人―新たな「共同性」を求めて

わが国における「私的政府」の導入可能性を議論しています。


本書の主題となっているのは,集合住宅のガバナンスのためのしくみとその背景として必要となる「共同性」を政治学的に分析することです。本書のモデルとして参照されているのが,アメリカの住宅所有者組合であり,本書はこれを日本にも持ち込み,マンションだけではなく都市全体を集合住宅のように管理する民間組織の必要性を指摘します。
本書を通底するのはコミュニティを構築する上での共同性をどのように生み出すかという問題です。その意味で非常に興味深かったのが,本書の補論(本書・254頁以下)の「究極の都市人─京都人」です。わが国における共同性は基本的には農村社会における共同性が優勢であり,戦後日本の会社主義もその延長として位置づけられています。これに対し古くから「都市」として発達してきた京都には,都市における共同性が見られるのだと著者は指摘します。真偽の程は別として,しばしば「京都人は冷たい」といった評価を耳にすることがありますが,これはまさに都市的な共同性なのだとするのです。都市的な共同性を生むためには,人間関係において一定の距離を保っておくこと,相手方に対して警戒心を忘れないことが肝要であり,それが集団に依存しない共同性(和して同せず)を生み出す,と著者は評価しています(本書・268頁)。