- 作者: 宇田川武久
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2006/10/10
- メディア: 新書
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鉄砲が日本に伝来したのは1543年であり,種子島に漂着したポルトガル人がもたらした,という説は,現在では広く信じられています。これに対して筆者は,この根拠になっている『鉄炮記』の資料としての価値はそれほど高くなく,また鉄砲の伝来とその普及との間にはさまざまな条件が重なっていなければならないはずであるとして,この説の再検討を試みています。
筆者は1543年という年次そのものの信憑性は否定しませんが,当時の鉄砲は種子島以外の様々なルートから日本に入ってきたのが自然と見るべきであるとします。筆者は炮術秘伝書に依拠して鉄砲伝来の謎を解き明かそうとしていますが,それによると,初期にはどちらかというと狩りのための道具として鉄砲が普及していたとのことです。それがその後軍用に転用され,改良が重ねられて,戦国時代の中心的な武具になっていきます。
本書のもう一つ興味深い点は,日本に入ってきた鉄砲が,秀吉の朝鮮出兵によって朝鮮半島にもたらされる経緯を詳細に分析しているところです。朝鮮出兵によって日本に朝鮮の焼き物技術が入ってきたことはよく知られていますが,日本の鉄砲が朝鮮に伝播したことはこの本を読むまで知りませんでした。朝鮮半島は日本からの攻撃を受けた後,今度は北方からの満州族の脅威を受けますが,その際に日本から渡った鉄砲が威力を発揮したようです。