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Konstanz als Heimatstadt

大月康弘・帝国と慈善

帝国と慈善―ビザンツ

帝国と慈善―ビザンツ

ビザンツ帝国のありかたから現代社会への示唆を引き出す大作です。


ビザンツ帝国を舞台とする重厚な経済史研究である本書は,同時に一般書として読んでもおもしろい主張を多く含んでいます。
国民国家が成立する以前の「世界帝国」としての性格を持ったビザンツ帝国では,普遍的性格と文化複合という特色を持ちました。出身地にかかわりなく,ギリシア語ができれば出世への道は開かれ,実際にさまざまな人種集団がビザンツの国政に携わりました。
こうした政治権力面に関する分析と並び,本書のもう一つの中心は,経済的観点から見たビザンツの特色です。帝国と教会・修道院の関係は西ヨーロッパのような相互独立ではなく,国家に教会が包摂されるモデルをとっています。その中で,教会機構を媒介とする財の再分配システムに著者は注目しています。現在でも続く篤志家の寄附やイスラム世界におけるワクフ行為の原型がビザンツ帝国における寄進に対する税制特権であったことを本書は強調しています。
ヨーロッパ史というとどうしてもドイツ・フランス・イギリスといった西ヨーロッパ史を中心にものを考えがちですが,本書はビザンツ帝国が支配した時代における政治・経済のしくみが今日になお大きな影響を与えていることを示してくれています。