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Konstanz als Heimatstadt

五十嵐敬喜=小川明雄・建築紛争

建築紛争―行政・司法の崩壊現場 (岩波新書)

建築紛争―行政・司法の崩壊現場 (岩波新書)

建築基準法都市計画法をめぐる紛争状況の分析と改善提案をしています。


昨年の今頃から世間を震撼させた耐震強度偽装問題を含め,最近様々な場所でおこっている建築紛争の具体的な分析が多くなされているのが本書の特色です*1。他に取り上げられているのは,一団地認定の問題,地下室マンションの問題,総合設計の問題,民間確認検査機関と性能規定の問題です。さらに,このような建築関係の問題がどのような政治的・経済的背景の下で起こっているのか,裁判所ではどのように判断がなされているのかを,具体例分析に引き続いて取り上げています。最後に,建築基準法都市計画法をどのように改正すればよいのかの改善提案をしているのも特徴的です。
具体的な改正提案は次のようなものです(本書・216頁以下)。まず建築士の立場の弱さを改善するため,職能法として建築士法を位置づけ直すべきだとします。次に建築基準法については,集団規定(都市計画の観点からなされる規制)については地方自治体が決める仕組みとすべきとします。さらに,現行の建築確認ではなく「許可」制とし,集団規定に関する建築主事の裁量を認めるべきとします。その際には都市計画のマスタープランが考慮ファクターとして加味されるべきであり,また場合によっては第三者機関に意見を求めた上で建築許可を下すしくみがよいとしています。現行の建築確認のしくみは戦後,建築の安全性を技術的に確認するというアメリカのシステムを導入したときに入ってきました。一方,当時の立案担当者は,集団規定に関しては地方自治に委ねようという発想から「建築基準法」という名前をつけたという証言もあります*2。今後の建築基準・都市計画法制のあり方を考える上で本書はさまざまなヒントを与えてくれると思います。

*1:本書については田中孝男先生の紹介エントリもあわせてご覧下さい。

*2:内藤亮一「建築基準法建築士法の立法過程と背景」建築雑誌84巻1019号(1969年)575-578(576)頁。