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Konstanz als Heimatstadt

福岡らしい街並みとは

老朽化した大型ビルが多く残る福岡市中心部。市は街の活性化を目指し,これまで再開発のネックの一つといわれてきたビルの容積率を来年度にも条件付きで緩和する。街づくりに貢献する開発に規定値を超える容積率の積み増しを認め再開発を促すというものだ。福岡の姿を変える契機ともいえるが,効果は限定的とする声は多い。
「街づくりの活力源を従来の公共投資から民間資本に移す今回の方針は英断ではないか」。地場リート法人を運営する福岡リアルティの榎本一郎企画部長は福岡市の規制緩和策を歓迎する。地価上昇が続く福岡の再開発を主導してきたファンド勢は民間主導での再開発が加速するとみる。
地場不動産デベロッパーも,博多・天神に大型ビルを持つ大手不動産会社や地場大手企業の「開発意欲は刺激するのでは」とみている。
容積率緩和案では,敷地内に渋滞緩和用のバスの一時停留施設や緑化施設などの設置,建物の内部に歩行者用の空間を確保することなどを条件に,従来のビル容積率の制限に「ボーナス」としての積み増しを認める。近隣の地権者同士で街の調和を考えた開発も対象となる。
福岡市では,1973年の都市計画法改正でビル容積率を厳格化して以来,大型ビルの開発は抑制されてきた。その結果,天神地区には古いビルなどがそのまま残り,不均衡な建物が林立している。しかも,主要ビルは更新時期にある。市は今が「今後30年の街の顔を決める大事な時」(地域計画課の有吉知美課長)とみている。
しかし,ビルの所有者は今回の規制緩和の効果を疑問視している。ビル再開発の最大のネックである空港問題が解決していないからだ。福岡市は福岡空港都心部に近く航空法で建物に60-70メートル程度の高さ制限が設定されている。
「空から見る福岡の街はぺちゃんこ」。天神地区の渡辺通り沿いの旧岩田屋保有する都築学園(福岡市)の都築仁子副理事長は福岡での都市開発の困難さを指摘。「旧岩田屋の跡には超高層ビルをつくりたいが,容積率を緩和しても一階層分くらいしか高くできない」という。
天神の目抜き通り,渡辺通り沿いに「天神ビル」を保有する九州電力子会社の電気ビル(福岡市)は「既にあるテナントなどを考えると再開発は難しい。近隣との共同開発も権利問題などが複雑」と慎重な姿勢。西日本鉄道の長尾亜夫社長も本社がある同通り沿いの福岡ビルについて「建て替えの計画はない」と明言している。
街の再開発には航空法の規制を取り除くことが必要との意見は財界でも根強い。高層ビルが建設できるようになって初めて内外から開発資金が流入するとみているからだ。中国の上海や大連,シンガポールなどのアジアの都市では,超高層ビルが並び街の風景が一変している。
空港問題では移転か現空港の拡張かについて協議が進んでいる。ただ,中心部のビルの高さ制限撤廃につながる移転が実現するかどうかは不透明なうえ,実現したとしても時間はかかりそう。利便性の確保と街の再開発をどう両立させるのか。福岡市は難しいかじ取りを迫られそうだ。(後藤宏光)

日本経済新聞の9日朝刊(地域経済面)に興味深い記事が出ていました。


福岡市の中心部である天神・博多駅にはそれなりに高いビルが建っていますが,それでも東京・大阪・名古屋・札幌に見られるような20階建てを超えるビルはありません。その理由は上記の記事にあるように,航空法の高さ制限がかかっているからです。福岡空港博多駅から地下鉄で10分もかからない市街地の中心部にあるアクセスの良さで知られています。それは裏を返せば,中心商業地における高層建築ができないことを意味します。現在建築が進んでいる新しい博多駅ビルも,高さ制限をカバーするために線路の下にもフロアを設けるなどの工夫をしています。また,九州大学の伊都キャンパスへの移転の理由となったのも,航空機進入経路の真下にある現在の場所では建物の高層化ができないことでした。
岩田屋ビル・福岡ビル天神コアビルといった天神の中心地にあるビルのいくつかはすでに建築からかなりの年数が経過しており,立替の問題が出てきています。その際に建て替えることで収益が上がる(少なくとも赤字にならない)ようにする策が容積率緩和であり,同様のことは(超高層化が問題になる前の)銀座ルールでもなされました。しかし上記記事によると,航空法上の制約から容積率緩和には誘導措置としての意味が乏しいとあります。そうすると,福岡市の中心市街地の更新のためには,空港を市街地の外側に移転することが必要になってきます。昨今議論されている福岡空港の移転問題の(従来比較的注目を集めなかった)一つの理由がここにあります。
しかし,他の都市のような超高層ビルが林立する風景が,福岡のまちづくりにとって適合的なのかどうか,じっくり考えてみる必要があるように思います。超高層ビルの林立は,その街区の景観に対し大きな圧迫感を与えます。また海からの風が内陸部に届きにくくなることで,ヒートアイランド現象を激化させるおそれがあるとも言われています。さらに福岡市中心部は警固断層が直下を走っていると言われており,他の都市以上に地震リスクを十分考慮した市街地の展開を図る必要があります。耐震・免震構造も重要ですが,もともとリスクが高いところを回避することも大きな考慮要素とすべきでしょう。
個人的には,福岡市の街並みは,コンパクトでこぎれいに見えるところが他の都市と比較した魅力のように感じています。東京や大阪のようにあちこちに行かなくても必要なものが揃うという商業地の集約的配置と,にもかかわらず超高層ビルがないことで得られている安定感ないし落ち着きのある雰囲気が,福岡市の商業地を特色づけているように思います。航空法の高さ制限という外在的な要素が結果としてこの街並みを形成しているとはいえ,福岡空港が市街地の近くにあることもまた福岡という都市の魅力を構成している以上,迷惑な外からの規制要因としてのみ捉えるのは不適切でしょう。「福岡らしい街並み」とはどのようなものなのかをじっくり考える機会が,今与えられているように思われます。