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Konstanz als Heimatstadt

服部龍二・幣原喜重郎と二十世紀の日本

幣原喜重郎と二十世紀の日本―外交と民主主義

幣原喜重郎と二十世紀の日本―外交と民主主義

幣原喜重郎の一生をたどりながら,外交と民主主義の相互関係を考えさせる作品です。


幣原喜重郎は,戦前は外交官としていわゆる「幣原外交」を推進し,戦後直後は総理大臣として,日本国憲法の制定と民主主義の確立に関わった著名人です。本書はその一生をたどりながら,外交と民主主義との関係という難問を読者に投げかけるものになっています。
本書の分量的な重点は,外交官として,あるいは外相としての幣原の歩みにあります。とりわけ,幣原外交の最後の躓きは,日米関係の処理にあったとする記述が目を引きます(本書・169頁以下)。幣原は外相を辞任すると,戦後までかなり長いこと在野にありました。政治家として再び表舞台に立つ契機となったのは占領という事態であり,東久邇宮内閣総辞職後,幣原は首相の座につきます。首相としての幣原は,当初自身は消極的であった日本国憲法の制定に道筋をつけ,総選挙の実施までこぎつけます。
筆者の問題意識の中心は,幣原喜重郎という一人の外交官・首相を通し,外交の継続性と民主主義をいかに両立させるかを考えるところにあります(本書・290頁)。戦前の政党政治は政党が外交面での主導性を発揮することができなかったために倒れてしまいました。戦後の幣原は「超党派」外交を志向していましたが,実際には野党は外交を政争の具としたがるためにうまくはいきませんでした。政権交代と外交の継続性という課題は,戦後の日本にあってはこれまで意識されることがありませんでした。幣原の歩みとともにこの問題の重さを指摘した点が,本書の最も大きな意義なのではないかと思われます。