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Konstanz als Heimatstadt

「すみません」と「ありがとう」

それぞれの言語には特有の表現方法があり,必ずしも一対一対応にはなっていません*1。ドイツ語と日本語のその意味での違いの一つは「すみません」と「ありがとう」に見られます。


話し言葉でもメールでも,日本人が多用するのは「すみません」です。「すみません」は文脈によって,(本来の意味である)謝罪のニュアンスになったり,依頼の意味を表したり,御礼を述べる意味であったり,単なる呼び掛けの機能しかなかったりと,さまざまな内容を持ちます。
ドイツ語の「すみません」は"Entschuldigung!"(口語では冒頭のen(t)-が脱落することが多いです)ですが,日本語の「すみません」よりは使われる範囲が狭いと言えます*2。特に,御礼を述べる意味でこの言葉が使われることはまずなく,ドイツ語では端的に"Danke!"が使われます。
逆にドイツ語における"Danke!"の幅は日本語の「ありがとう」よりも随分広いと言えます。

Kannst du etwas zur Party mitbringen? Danke!
(何かパーティーに持ってきてもらえるかな?よろしくね。)
Vielen Dank im Voraus!(どうぞよろしくお願いします。)

「よろしく」という言葉は日本語ではしばしば耳にしますが,ドイツ語には相当するぴったりの表現はありません。ニュアンスを伝えるためには上の例文にあるようにDanke!を使うことになります。日本語ではお願いすることが中心であるのに対し,ドイツ語では感謝を述べることに重点があるとも言えます。同様の傾向を示すものとして,

Bitte rauchen Sie hier nicht. Vielen Dank für Ihr Verständnis.
(ここでタバコを吸わないでください。ご理解に感謝します。)

があります。何か要求・指示をした後に付け加える言葉としては,"Wir bitten um Ihr Verständnis."(あなたのご理解をお願いします)という表現ももちろんあるのですが,使われる頻度は圧倒的に少ないと言えます*3
御礼中心のドイツ語のあり方は,英語とも似ていると言えるのかも知れません。あるいは,ドイツ人は基本的にほとんど謝らないということも,この表現方法と関係しているのかも知れません。

*1:"Jede Sprache ist ein Arsenal an Ausdrucksmöglichkeiten, aber keine enthält die gleichen Waffen wie die andere. Übersetzen bedeutet immer: Mit ungleichen Waffen duellieren." (それぞれの言語は表現方法の兵器庫だが,ある言語には存在する武器が他の言語にも同様に存在しているというわけではない。翻訳とは常に「同一ではない武器で戦うこと」なのである。)という表現(Richard Humphery, Staregies of Translation German English, Vol.I Word, Phrase, Sentence, 2008, S.6.)はこの事情を適切に表現していると思います。

*2:日本語では「すいません」の一言で,相手が文脈から意味を判断してくれます。しかしドイツ語では,Entschuldigung!と言った後に,もしお願いがあればお願いの内容をきちんと伝えないと,通常は分かってくれません。

*3:1つの手がかりとして,2つの表現をGoogle検索してみると,Vielen Dankの方が約208万件,Wir bittenの方が約83万件でした。